第二の人生、気ままに生きる

60歳で退職しました。その後の自由な人生を記録と周辺のおもしろ情報など

読書

『大空の決戦』羽切 松雄(文春文庫)

副題に「零戦搭乗員空戦録」とありますが、著者は、九〇式艦上戦闘機をはじめ、九五式、九六式、十二試艦戦一号機(のちの零戦)、零戦十一型~六三型、雷電、紫電、紫電改と、日本海軍の戦闘機図鑑に載っているほとんどの機種を乗り継いで太平洋戦争を生き…

『白い部屋で月の歌を』朱川 湊人 (角川ホラー文庫)

直木賞受賞の2年前に「日本ホラー小説大賞短編賞」を受賞したのが、この作品になります。短編と言っても中編小説クラスのボリュームがあり、読み応えがあります。表題作は、とにかくキャラが立っていて、除霊をする3人、それぞれに個性があります。主人公…

『神を見た犬』ブッツァーティ(光文社古典新訳文庫)

幻想文学作家であるブッツァーティの短篇集。彼の作品は、彼自身が画家でもあることなのか、描写が幻想的でありながら視覚的で解りやすく、とっつきやすい作風です。宗教を揶揄したようなところもあり、現代人の間隔にもなじみます。幻想的でありながら、ボ…

『幸福論』アラン(集英社文庫)

「人は、幸福だから笑うのではなく、笑うから幸福なのだ」で有名なアランの語録。アランは、小説やエッセイの形ではなく語録(プロポ)の形で自分の思想を表現しています。アランの語録(プロポ)は、文庫本で3ページ程度の短い文章を並べる形でした。この…

『人はどう死ぬのか』久坂部羊(講談社現代新書)

末期がん患者の病棟、世界各国の病院、在宅介護医と多様な医療の現場で、多くの人を看取った経験から書かれた医療にかかわった人たちの死に様の事例を紹介しています。それは日本だけではなく新興国や古い伝統があるヨーロッパ、様々な宗教などにより生死感…

『あなたが消えた夜に』中村文則(毎日文庫)

芥川賞作家が手がけたミステリー風純文学なのか、純文学風ミステリーなのか、ミステリーのように面白く、純文学のように深い味わいの物語。連続通り魔事件の犯人像は、コートを着た男。コート男を追う2人の刑事が主人公(第1部・2部)ですが、後半(第3…

『豚の死なない日』ロバート・ニュートン・ペック(白水Uブックス)

アメリカ合衆国のヤングアダルト小説の傑作。古き良き時代、北米の台地で、牛・豚・鶏と、良き隣人たちとともに生きる開拓民の生活が描かれています。主人公は十二歳の少年です。その時代、その地域では、十二歳までは子ども、十三歳から大人の扱いをされる…

『山中静夫氏の尊厳死』南木佳士(文春文庫)

長野県の病院で呼吸器系の癌患者の担当医師である主人公の元に、山中静夫氏がやってきます。氏は、肺がんが骨などに転移し、余命幾ばくもありませんでした。わざわざ山梨から家族と離れ長野県の病院に来た理由は、故郷の山を見ながら死にたいからと言うので…

『官能と少女』宮木 あや子(ハヤカワ文庫JA)

歪んだ欲望の犠牲になる少女たちの話を、耽美に描いた小説集。リストカットを繰り返すような線の細い少女たちは妖艶でありながら儚い。しかし、自傷行為の裏にある生きる希望とSOSに気が付くことは難しいのです。自分には縁がないタイプの人たちなので、怖い…

『一杯の珈琲から』エーリヒ・ケストナー(グーテンベルク21)

『飛ぶ教室』などの児童文学作家として著名なケストナーの大人向けユーモア小説です。 ドイツに住む主人公がオーストリアの友人のところへ行くのに為替規制により少額のお金しか持ち出せず、ドイツでは大名暮らし、オーストリアでは無一文で暮らすという喜劇…

『月曜物語』アルフォンス・ドーデ(グーテンベルク21)

小学校6年生の国語の教科書の最後に載っていた「最後の授業」(昭和27~59年)という短編小説が収録されているドーデの短編集になります。昭和47年以前に生まれた人は記憶にあるのではないでしょうか。「最後の授業」は、ドイツとフランスの間にあるアルザス…

『沖縄の殿様』高橋義夫(中公新書)

「最後の米沢藩主・上杉茂憲の県令奮闘記」がサブタイトル。廃藩置県により、県令(今で言う県知事)として任命されたのは、北国の米沢藩主上杉茂憲でした。戦国時代に軍神上杉謙信に率いられ、江戸時代には行政改革の父と言われた名君上杉鷹山を中興の祖と…

『公開処刑人 森のくまさん』堀内公太郎(宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

『公開処刑人 森のくまさん』堀内公太郎(宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)宝島社の『このミス』大賞では、候補作の中から、惜しくも選ばれなかった作品のうち、光るものがあり、徹底的に手を入れればものになると判断され、編集者が半年から1年程度付…

『ドキュメント生還2 長期遭難からの脱出』羽根田 治(山と渓谷社)

以前に紹介した『ドキュメント生還』の続編になります。今回の目玉は、遭難者が残した手記を、遭難記事と並行して乗せた部分でしょう。記事だけ読むと冷静に行動していたように見えますが、リアルタイムで書かれた手記には、葛藤や焦り、幻覚などがはっきり…

『ヒッタイト帝国「鉄の王国」の実像』津本 英利 (PHP新書)

今から四十年以上前に世界史で習った紀元前の中東で鉄の武器を用い、青銅文化を圧倒したヒッタイト帝国。高校生まで歴史に興味がなかったので、なんとなくスルーしていたのですが、タイトルを見て、その真相を知りたくなり読んでみました。紀元前十五世紀~…

『定年バカ』勢古浩爾(SB新書)

ちまたにあふれる定年本をぶった切る。老後の生き方を書いた本が、書店や通販サイトにあふれています。それらの本には、大きなお世話な話が満載で、誰でも思いつくようなアドバイスが無責任に並んでいます。筆者は、自分の好きなようにすればよい。図書館に…

『わたつみ 』花房観音(コスミック文庫)

主人公は三十三歳の女性。駆け出しの映画監督であったが夢破れ、生まれ故郷の日本海岸沿いのド田舎へ帰京することになります。故郷に帰って自分を取り戻すタイプの話なのですが、田舎社会に深く入り込む描写が、ちょっとこれ、やばいんじゃないレベルでハラ…

『強欲な羊』美輪 和音(創元推理文庫)

「羊の皮を被ったオオカミ」という喩えがありますが、オオカミが羊の皮をかぶっているわけではなく、おとなしい羊の群れの中に、オオカミのような性格の羊が紛れ込んでいるのです。 そんな羊のお話が、5つの短編になっています。 どれも、違った雰囲気の話…

『地政学が最強の教養である』田村耕太郎 (SBクリエイティブ)

「“圧倒的教養”が身につく、たった1つの学問」がサブタイトルですが、この本を読む限り学問というより単純明快な理論であると感じました。というのは、同じ記述が何回も出てきて、限られた誌面で言うことがあまりないことの表れだと考えます。国の動きは、地…

『イワン・デニソビッチの一日』ソルジェニツィン(グーテンベルク21)

ノーベル文学賞作家の代表作になります。ソ連のスターリン時代、強制収容所(ラーゲリ)の囚人イワン・デニソビッチが主人公です。彼が目覚めてから、眠りに落ちるまでの1日を丹念に描写しています。ある冬の日、氷点下30度の極寒の収容所の1日は、食料と…

『スウィンダラーハウス』根本聡一郎(祥伝社)

一昔前で言うオレオレ詐欺ですが、今は特殊詐欺として扱われている類です。主人公のウーバー配達員の青年は、配達先で意識を失い脱出不可能な詐欺部屋へ拉致され、特殊詐欺の掛け子として働かされることを強要されます。その部屋には彼を含め6人の若者がと…

『狭き門』アンドレ・ジッド (グーテンベルク21)

古くから、新潮文庫の100冊や、少年少女向けのおすすめ名作本に名を連ねていたノーベル文学賞本でしたが、若いころは、受験戦争で疲弊する青年の姿でも書いてあるのだろうと思って読みませんでした。還暦を過ぎて手に取ってみると、全然違う話で、信仰と愛に…

『墨龍賦』葉室 麟 (PHP文芸文庫)

戦国時代に生きた遅咲きの絵師、海北友松(かいほう・ゆうしょう)の生涯を描いています。建仁寺の「雲龍図」の他、「山水図屏風」「竹林七賢図」「花卉図屏風」「寒山拾得・三酸図屏風」など、数多くの傑作が残っているものの、すべて晩年に描かれたものです…

『月を売った男 』ロバート・A・ハインライン(グーテンベルク21)

ハインラインの初期の傑作選と呼べる本。5篇の短編が載っていますが、表題作「月を売った男」は、中編小説といえるほどの長さがありました。アポロ計画もなかった時代ですが、人類が近い将来、月に行くとしたらという設定で、考えうる限りの知恵を絞って書…

『蕎麦、食べていけ! 』江上剛 (光文社文庫)

地域おこしドタバタコメディー小説。バブルでにぎわったころも遠い昔となり、静かな温泉街となった群馬の寿老神温泉街。そこの小さな旅館に、大阪から一人の女子高生が越してきたことから物語がはじまります。ひょんなことから、地元の信用金庫に努める若者…

『貧困と脳 』鈴木大介(幻冬舎新書)

サブタイトルは、“「働かない」のではなく「働けない」”体は健康なのに、だらしがない。いつも遅刻する。納品が間に合わない。一つの仕事に人の何倍も時間がかかる。そんな人をサボってる、やる気がないと非難する。働かないで生活保護を自給しているが、パ…

『一億円のさようなら』白石一文 (徳間文庫)

直木賞作家渾身のエンターテインメント小説。主人公は50代の男性で、妻と大学生クラスの子供2人とつつがなく暮らしています。ひょんなことから、妻が外国へ嫁いだ叔母の遺産と株で48億円の財産を持っていることを知ってしまいます。結婚する前から、秘密に…

『ドキュメント生還-山岳遭難からの救出』羽根田治 (ヤマケイ文庫)

登山で遭難し生還した8事例が紹介されています。それらを総括し遭難の原因や生き延びる条件を考察しています。生き延びた人たちは、準備万端で臨んでいるように思われますが、ほんの少しの失敗、偶然のかさなりで滑落したり道に迷ったりしています。油断、…

『住友を破壊した男 伊庭貞剛伝』江上剛(PHP研究所)

日本三大財閥(三菱、三井、住友)の一つ、住友の中興の祖である伊庭貞剛(いばていごう)の生涯を描いています。幕末から明治維新にかけて、貞剛は国のために働こうとしましたが、戦場に出る機会に恵まれず、明治政府の下で司法の道に進みます。その後、叔…

『発狂した宇宙』フレドリック・ブラウン(グーテンベルク21)

多次元宇宙SFの古典的名作。月へロケットを打ち上げるのに失敗し、地球に激突した衝撃で、主人公は他の宇宙に飛ばされてしまいます。そこでは、ほとんど現在(この本が書かれた当時)の地球と同じですが、恒星間航行が実用化されており、未知の地球外知的生…