第二の人生、気ままに生きる

60歳で退職しました。その後の自由な人生を記録と周辺のおもしろ情報など

『山の音』 川端 康成 (角川文庫)

『山の音』とは

 ノーベル賞作家 川端康成が紡ぐ不朽の傑作とされている小説です。
 日本の家の閉塞感と老人の老い、そして死への恐怖を描く、戦後文学の最高峰に位する名作とされています。

 雑誌に短編として連載されていた物語が、つなげると一つの長編となるという卓越した構成力が発揮されています。リズムよく読めるので、忙しい人でも読みやすいでしょう。

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読んだ感想(ネタバレ含む)

 主人公である信吾は小さな会社の社長で、鎌倉から東京にある社に通っている62歳の男であるが、amazonなどの紹介文にある”老人の老い”や”死の恐怖”を感じるところはあまりありませんでした。強いて言えば、冒頭の短篇「山の音」のみに感じられることで、長編小説として読むと、それが主題だとは言えません。

 わたしが思う主題は、戦争が残した心の傷を持つ者と、それを持たない者が、たとえ家族であっても心が通い合わなくなった悲劇を描いていると思います。

 戦争が残した傷を持つ者とは、主人公の息子である修一(帰還兵)をはじめ、その浮気相手である絹子とその同居女性(この二人は戦争未亡人)、そして会社の事務員の22歳の女性英子(恋人が戦死)です。

 対する傷を持たない者(傷ついたこともあるだろうがもう回復してる)は、主人公の信吾とその妻保子、そして修一の妻である菊子です。

 信吾の出戻り娘の房子は、傷ついた者に離縁されて来たということで、嫁いだ先の家でも同じようなことが起こっていたということを示しています。

 主人公の信吾は、長男修一の妻である菊子とは心を通わせることができますが、修一や房子とはぎこちないやり取りがつづきます。また、修一の浮気相手の絹子やその友人や事務員の英子の心も理解できず不器用なふるまいをしてしまうのです。

 弾丸が飛び交う戦場を経験し帰還した修一、夫や恋人を戦争で失った女たちの生き方に、日本の古い家族の形が当てはまらないことで、戸惑う主人公の姿が哀れです。

 人口分布で適齢期の男性が極端に少なくなった世界と、それ以外の年代では、終戦からの生き方、人生感の違いが浮き彫りにしています。